カジノ、エンターテイメントの街ラスベガス。年間4000万人もの観光客で賑わうラスベガスストリップには25を越えるカジノホテルが建ち並び、数百億円とも言われる金額が連日連夜行き交っているとも言われている。そんなラスベガスストリップに建ち並ぶカジノホテルは大きな2大勢力が殆どを占めており、日本人観光客にも人気のBellagio/ベラージオやボクシングの世界マッチやトップアーティストがコンサートを行う事でも知られているMGM Grand/MGMグランドなどはMGM International社の所有するカジノホテルであり、その他にもCity Center/シティーセンター内のAria/アリアなどを含めラスベガスストリップ上に9つのカジノホテルを運営している。そして、2大勢力のもう一つが映画Hang Over/ハングオーバーでも知られるCaesars Palace/シーザーズ・パレスやパリの町並みを再現したParis Las Vegas/パリス・ラスベガスなどを所有するCaesars Entertainment社であり、こちらはその他にもFlamingo/フラミンゴやBally's/バリーズなどラスベガスストリップ上に8つのカジノホテルを運営している。MGM InternationalとCaesars Entertainmentでラスベガスストリップ上のホテル25軒中、半数以上の17軒を運営している事から2大勢力と長年言われているが、その他にもVenetian/ベネチアン、Palazzo/パラッツォを運営するLas Vegas Sands社、現在のラスベガスを作り上げた男とも言われる”カジノ王”スティーブ・ウィン氏が自らの名を冠したWynne/ウィン、Encore/アンコールなどの人気カジノホテルの出現によりラスベガス全体の収益に対して、2大勢力が占める割合というのも分散されてきている。
そして、ついに長年噂されていたシーザーズ・エンターテイメント社の破産が昨年末より現実味を帯び、ラスベガスだけでも300人規模のレイオフ(解雇)が決行されるとの噂が流れている。シーザーズ・エンターテイメント社はラスベガス以外にもニュージャージー州のアトランティックシティーなどにもカジノホテルを運営しており、全米では1,2位を争う大手カジノホテルチェーンであるが、なぜ一体ここまで追い込まれてしまったのだろうか?
原因は一つだけではないと思うが、大きな要因の一つとして上げられるのはアメリカ以外でのカジノ運営を行ってこなかった点がまず上げられる。前述したその他のカジノホテル、MGMインターナショナル、ラスベガス・サンズ、ウィンの3社はラスベガス以外にもマカオ、シンガポールへ早い段階で進出し、ラスベガスの景気が回復するまでの間にリスクの分散をする事が出来たといわれている。しかし、唯一シーザーズ・エンターテイメント社はマカオやシンガポールなど海外での展開を行っておらず、2008年のリーマンショックから始まった不景気に対応しきれなかったといわれている。それに加え、2014年にオープンしたThe Linq/ザ・リンクプロジェクトにも500億円とも言われる投資を行い、工事の遅延などで投資の回収に想定外の時間を有しているのもキャッシュフローが鈍っている一因とも言われている。
何れにしろ、このままシーザーズ・エンターテイメントが破綻申請をする事で、景気が上向きになりつつあると言われているラスベガスの景気動向にも暗雲が立ち込む可能性もある。2014年3月にはThe Quad/ザ・クアッド(現The Linq Hotel & Casino)、Bally's/バリーズ、The Cromwell/ザ・クロムウェル、そしてニューオリンズにあるHarrah's/ハラーズを子会社に売却し200億ドルを超えるとも言われる債務の再編に向けた取り組みを行っている。そして、さらに現在シーザーズ・エンターテイメントが保有するラスベガスのカジノホテルの更なる売却も考慮しているといわれ、候補としてはPlanet Hollywood/プラネット・ハリウッド、Paris Las Vegas/パリス・ラスベガス、Harrah's/ハラーズの3軒が有力との噂もある。しかし、Planet Hollywoodはブリットニー・スピアーズとの契約がまだ数年残っている事もあり実現は難しいと思われ、金額的にはハラーズよりもパリスが現実的だといわれている。
そして、戦略なのか、はたまた単なる偶然なのか昨年よりマカオではラスベガス・サンズ社によるパリをイメージしたホテルParisian Macao/パリジャン・マカオの建設が総工費27億ドル(約3250億円)をかけて進められており、今年の年末までには完成予定と言う。シンガポールのMarina Bay Sands/マリーナ・ベイ・サンズ、マカオのベネチアン、パリジャン・マカオ、そしてラスベガスのベネチアン、パラッツォと業績が好調なラスベガス・サンズ社が今後シーザーズ・エンターテイメント社に代わってラスベガスの二大勢力となるのか、今回のシーザーズ・エンターテイメント社の破産申告は長く続いたラスベガスの世代交代を意味しているのかもしれない・・・
今回のシーザーズ・エンターテイメントの破産申請は一般的にChapter11/チャプター・イレブンと呼ばれるもので、債務を清算するChapter7/チャプター・セブンと違い、再建を目指した倒産法であるため債務者自らが債務整理案を作成できることから、日本の民事再生法に相当している。それが故に、また母体であるシーザーズ・エンターテイメント社が破産申請をおこなっても、数ある子会社と連結して再生案を練り体制を整える事が可能な為、事実上大きな変化は無いとみられている。今回のチャプターイレブン申請はシーザーズ・エンターテイメント社が抱える200億ドル超の借金の返済に待ったをかける為の手段との見方が強く、チャプターイレブンを申請する事で債権者は一切の取立てなどを封じられてしまうため、シーザーズ・エンターテイメント社としては再建への猶予を得ることが出来る。しかし、既に債権者はこの対応が不服として、過半数の投資家が再編案に反対するグループを結成し、対立している為その点が再編へのカギとなると考えられている。現時点では観光客には大きな影響はないと見られているが、今後もシーザーズ・エンターテイメントの再編案が纏まらない場合には、主要ホテルの他社への売却などが検討される可能性もあり、その場合カジノ内で利用できるポイント・カードの利用制限や特典などに影響が出てくるかもしれない。
企業名 | Caesars Entertainment シーザーズ・エンターテイメント社 |
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民事再生法申請日 | 2015年1月15日 |